年金分割

熟年離婚の場合、特に問題になるのが年金の問題です。公的年金には、誰でももらえる国民年金と、サラリーマンがもらえる厚生年金があります。国民年金は誰でももらえますが、厚生年金を受け取ることができるのは、被保険者のみです。

夫が働いて、妻は家事に専念するというご夫婦の場合、夫が被保険者であるため、妻が厚生年金を受け取ることができません。そうすると、離婚後、妻はご自身で加入していた国民年金しか受け取ることができず、経済的に困窮してしまうという問題が生じます。

このような問題を解消する制度が「年金分割」です。この記事では、年金分割の制度について、弁護士が解説します。

 

年金分割とは

年金分割とは、夫婦が加入していた厚生年金の保険料給付実績のうち、報酬比例部分について、多い方(多くの場合は夫)から少ない方(多くはの場合は妻)へと分割する制度をいいます。よく、年金分割を「夫が受け取る年金の半分を受けとることができる」と誤解されることがあります。しかし、分割の対象となるのは、報酬比例部分という、年金を2階建てとすると2階建て部分のみなのです。

年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。

 

年金分割の対象となる年金は?

年金分割の対象となるのは、厚生年金です。平成27年に共済年金が厚生年金に一元化されたため、共済組合の組合員も厚生年金の対象となります。

年金は「3階構造」と言われます。1階部分は基礎年金部分で、全員が加入する国民年金があたります。2階部分が厚生年金(旧共済年金を含む)です。3階部分の上乗せ部分は企業年金などです。

このうち、年金分割制度の対象となるのは、2階部分の厚生年金のみで、1階と3階は対象ではありません。

したがって、夫婦ともに自営業であったり、夫が自営業で妻が専業主婦という場合は、双方ともに国民年金しか加入していませんから、年金分割は関係ありません。

なお、自営業者の中に国民年金基金を掛けている場合は、年金分割ではなく、財産分与の対象として検討する場合があります。

 

iDeCo(イデコ)は年金分割の対象ですか?

iDeCoは、個人型確定拠出年金のことをいい、自分で拠出した掛け金を60歳になるまで自分自身で運用し、原則60歳以降に老齢給付金として受けとるという制度です。税金の優遇措置がとられているため、加入されている方も多くいらっしゃるかと思います。

しかし、iDeCoは年金分割の対象ではありません。もっとも、財産分与の対象となる場合があります。

 

合意分割

合意分割とは、夫婦で合意した割合により分割することをおおいます。分割割合の上限は50パーセント(最大で2分の1)とされています。

分割の対象は、夫婦双方の結婚期間中の標準報酬総額の合計額であり、夫婦の一方の対象期間標準報酬総額ではありません。

例えば、夫と妻の結婚期間中の標準報酬総額が分割前にはそれぞれ 7000万円と 1000万円とします。この場合、案分割合を50パーセントとすると、分割により夫から妻に割り当てるのは、3500万円ではなく 3000万円です。

 

50パーセント以外の割合で分割ができるの?

インターネットの記事をみていると、男性向けの記事で「50パーセントよりも低い割合(例えば30パーセント)に変更することができる」という内容を見かけるときがあります。しかし、実務上、50%以外の割合になることは極めて稀です。50パーセントを下回る割合で分割する場合は相当例外的なケースです。

 

年金分割はいつまでに決める必要があるの?

年金分割は必ず離婚時に決めなければならない、というわけではありません。離婚時に決める必要はありません。離婚等をした日の翌日から起算して2年以内であれば請求ができます。もっとも、2年はあっという間に過ぎてしまいますし、できる限り一度に離婚条件を合意することが望ましいですから、離婚時に決めておくべきです。

 

3号分割

話し合いで合意が得られない場合には、家庭裁判所で分割割合を決めることができます。平成20年4月の制度変更では、妻が専業主婦だった期間は、夫の厚生年金の保険納付実績を自動的に2分の1に分割できるようになりました。

前述の「合意分割制度」と区別するために、「3号分割制度」と呼ばれています。当事者間で分割割合の合意をする必要がない(家庭裁判所で分割割合を決めてもらう必要もありません)ので、年金分割の処理が簡便です。夫が要求しても2分の1より割合を下げることはできません。

ただし、この制度の対象となるのは、平成20年4月以降の専業主婦期間のみになります。たとえば、結婚期間が20年で平成25年の3月に離婚したとします。この場合、平成20年4月~平成25年3月までの5年間分のみが、「3号分割制度」(2分の1分割)の対象となります。

それまでの15年間については、「合意分割制度」に基づいて処理します。夫婦間で話し合い、もし合意が得られなければ家庭裁判所に分割割合の決定を求めます。年金の問題はそれぞれの生活設計に大きな影響を与える問題なので、正しい理解が必要です。

 

「合意分割」の手続・分割割合について

(1)「年金分割のための情報通知書」の取得

まず、年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を取得しましょう。

年金事務所に、以下の書類をもって、「年金分割のための情報提供請求書」とともに提出してください。この「年金分割のための情報提供請求書」の書式は、年金事務所に備え付けられていますし、ホームページからもダウロードが可能です。

 

① 基礎年金番号またはマイナンバーを明らかにすることができる書類

・請求書に基礎年金番号を記入するとき
請求者の基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類

・請求書に個人番号(マイナンバー)を記入するとき
個人番号カード(マイナンバーカード)等

 

② 婚姻期間等を明らかにすることができる書類

・婚姻期間を明らかにすることができる書類
それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)、または戸籍抄本(個人事項証明書)のいずれかの書類
(請求日から6カ月以内に交付され、婚姻日および離婚日が確認できるもの)

・事実婚関係にあるとき
事実婚関係にある期間の情報通知書等を請求する場合は、その事実を明らかにすることができる書類(住民票等)

※出典:https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/rikon/20140421-02.html

 

(2)分割割合を決める

① 按分割合はどうするか?

情報通知書を取得したら、当事者間で年金分割の按分割合を決めましょう。上述のように、割合は50パーセント(0.5)とすることが一般的です。

 

② 年金事務所で手続き

当事者間の話し合いで年金分割の合意ができた場合、夫婦2人で年金事務所で所定の手続きをするか、もしくは、公証人役場で年金分割のための合意書を作成した上でその後一人で年金事務所で手続きを行うことが必要です。

相手方が年金分割の手続きに協力しない場合は、弁護士に依頼して代理人をたてるか、調停の申立てを検討しましょう。

分割割合が決まらない場合は、年金分割の調停の申し立てを行うことをおすすめします。調停は調停委員という第三者が話し合いに入ってくれますし、実務上年金分割の割合は50パーセントで決まることがほとんどですから、スムーズに進むことが期待できます。調停でも合意ができなければ、審判に移行して、裁判官が分割割合を決定してもらいます。

 

調停や審判等で年金分割の割合が決まれば、裁判所から送達された「調停調書」「審判書」等を持参して、年金事務所で手続きをとりましょう。この場合、年金事務所での手続きに相手方の協力は不要です。

 

「3号分割」の手続

3号分割のみを利用する場合は、離婚後、分割を請求する方が、年金事務所で所定の手続きを行えば完了します。合意分割の場合とは異なり、相手の協力は不要です。

 

年金事務所はどこにあるの?

新潟県内の年金事務所は以下のとおりです。年金分割の情報通知書の取得等は、最寄りの年金事務所にお問い合わせください。

 

年金事務所名

所在地

電話番号

新潟東

新潟県新潟市中央区新光町1-16

025-283-1013

新潟西

新潟県新潟市中央区西大畑町5191-15

025-225-3008

長岡

新潟県長岡市台町2-9-17

0258-88-0006

上越

新潟県上越市西城町3-11-19

025-524-4113(総務課)

柏崎

新潟県柏崎市幸町3-28

0257-38-0568

三条

新潟県三条市興野3-2-3

0256-32-2820

新発田

新潟県新発田市新富町1-1-24

0254-23-2128

六日町

新潟県南魚沼市六日町字北沖93-17

025-716-0008

 

年金分割については弁護士にご相談ください!

年金分割は離婚後の生活を維持するために重要なものです。しかし、制度が複雑で、なかなか問題が解消できないという方が多くいらっしゃいます。自分で年金分割を調べたり、元夫に請求するとしても、とても億劫になりますよね。

当事務所の弁護士は様々なご夫婦の問題を解決してきました。このページをご覧になっているあなたのケースについても、適切な解決に導くことができるでしょう。

年金分割についてお悩みの方は、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。