婚姻費用について

1 婚姻費用とは

婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を送るために必要な全ての費用のことをさします。具体的には、家賃、水道光熱費、医療費、子どもの教育関係費、その他日常に要する費用などです。

 

どのようなときに婚姻費用を支払わなければならないの?

離婚を決意してから実際に離婚が成立するまで時間がかかる場合があります。その間、夫婦どちらかが自宅を出る、あるいは、夫婦ともにそれぞれ別々に引っ越しをして、別居状態になることが多くあります。婚姻費用は、このような場合に別居したときに、収入の多い夫(妻)が収入の少ない妻(夫)に対して支払う生活費です。

たとえば、妻が夫との離婚を決意し、子どもを連れて実家へ引っ越し、離婚が生活するまで毎月の婚姻費用を請求するというケースは多くございます。

 

なぜ婚姻費用を支払うの?

夫婦は、たとえ別居していたとしても、妻(又は夫)が自分と同程度の生活を保持させる義務があります(これを「生活保持義務」といいます。)。

婚姻費用分担は、この生活保持義務に基づくものであり、別居したとしても、この義務はなくなりません。

 

養育費とどのように違うの?

お子さんがいらっしゃる夫婦の場合、子の生活費が含まれている点で「養育費」と似ていると思われるかと思います。

しかし、実は「婚姻費用」と「養育費」は違うものです。養育費は離婚成立後にお子さんを扶養するための費用です。婚姻費用は、婚姻関係が継続している間(つまり、離婚が成立するまで)に発生する費用です。

 

妻(夫)が出て行ったのに支払う必要があるの?

このような場合、夫側から「勝手に出て行ったのに、生活費を請求されるなんて・・・」というご相談をいただくことがあります。しかし、婚姻関係が続いている以上、収入が高い方は低い方に対して、婚姻費用を支払う義務があります。

 

婚姻費用の金額はどのように決めるの?

生活状況は各家庭によってさまざまですし、夫婦がお互いに話し合って自由に決めることができます。

しかし、「いくら払えばいいかわからない」「夫婦で話し合えるような状況ではない」ということがよくあります。

そこで、実務上は、裁判所が公表している算定表(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)を使って計算することが一般的です。

この算定表は、①お互いの収入額、②お子さんを夫婦のどちらが監護しているのか、③お子さんは何人いるのか、④お子さんの年齢等を考慮して使用します。

例えば、夫の収入が500万円、妻の収入が100万円、3歳のお子さんが1名おり、妻が子を連れて自宅を出て行ったケースで説明します。

このケースでは、お子さんが「1人」で「0~14歳」ですから、「表11」を使います。

夫の方が収入が高いので、婚姻費用を支払う義務があります。この婚姻費用を支払う側を「義務者」といいます。他方で、妻は婚姻費用を請求する側ですから「権利者」といいます。

義務者(夫)の年収を縦軸、権利者(妻)の年収を横軸にそれぞれ合わせます。

このケースでは、「8~10万円」の領域の真ん中あたりでクロスすることになりますので、月額9万円に設定する、という具合に決めます。

 

算定表より婚姻費用が高くなることはありますか?

この算定表は、お子さんが公立学校に在籍することを想定して作成されています。そのため、お子さんが私立学校に在籍しており、一般的な公立学校よりも高額な授業料等を支払わなければならないケースは、この算定表ではカバーすることができない場合があります。このような場合は、お子さんが在籍する学校の授業料等と公立学校の費用との差額を算定し、それをどのように支払を分担するのかを協議することになります。

もっとも、現在は私立高校が無償化されており、実質的に授業料がかからない場合があります。そのような場合は算定表にしたがった金額で足りることが多いかと思います。

また、お子さんの病気のため、医療費が多くかかかるという場合にも、算定表が想定している医療費を超える金額との差額について、どの程度負担するかについて協議することになります。

 

算定表を使用する上での注意点

算定表は様々なご家庭を想して作成されており、多くの場合はこの算定表でカバーすることができます。

もっとも、以下のケースでは算定表を使うことができません。以下のようなケースに当てはまる方は、詳細な計算が必要となりますので、弁護士にご相談することをお勧めいたします。

 

例)・未成年のお子さんが4人以上いる場合
  ・収入が2000万円を超える場合
  ・未成年のお子さんが複数名おり、夫婦それぞれがお子さんを監護している場合

 

2 婚姻費用の支払期間

婚姻費用はいつまで支払ってもらえるの?

婚姻費用の支払終期は、「離婚によって婚姻関係が解消された時点」、もしくは、「別居を解消して同居を開始した時点」です。

お子さんが成人した場合は、親は子の扶養義務がなくなりますから、その場合は妻の生活費のみを負担することになります。

 

婚姻費用はいつから支払ってもらえるの?

実務上は、婚姻費用の支払いを請求した時期から、婚姻費用を支払うということが多いです。例えば、メールやLINEで請求をしたとき、手紙で請求したとき、婚姻費用の支払いを求める調停を申し立てたとき等です。弁護士は、いつから請求をしたのかを記録に残すため、内容証明郵便等を使って、証拠を残すようにしています。

 

3 婚姻費用の注意点!

①口約束

夫婦がケンカ状態で別居するというケースが多く、冷静に話し合いができないことが往々にしてあります。そのため、口約束で生活費を払ってもらう、という程度にしか取り決めがなされていない(あるいは、何も取り決めがない)という場合が多くあります。中には「夫が生活費を全て支払うと言っていました」というご相談もありますが、このような曖昧な約束では、いくら支払えばいいかわからず、トラブルに発展しやすいです。

 

②収入資料がない

同居しているときから夫婦の家計が別々という場合、お互いの年収を知らないことがあります。また、一度別居してしまうと、相手の収入を知る機会はほとんどなくなってしまいます。そのため、別居する際には、相手の収入資料(源泉徴収票、確定申告書の控え等)をきちんとチェックすることが望ましいです。

 

4 婚姻費用を支払ってもらうためには?

① 話し合い

まずは話し合いをして支払を求めましょう。話し合いの方法は、必ずしても直接会う必要はありません。メールやLINEでも構いません。お互いの収入や必要な生活費をきちんと話し合いましょう。

話し合いがまとまったら、「合意書」等でまとめておくのが望ましいです。

 

② 調停

どうしても、当事者間では話し合いができない(話し合いにならない)場合は、家庭裁判所の「調停」という制度を使うことをお勧めします。

調停は、裁判所の調停委員という方が2名立ち会いのもとで、話し合いを進めます。しかも、相手方と直接顔を合わせる必要はありません。調停委員にお話しをし、それを相手方に伝えてもらうのです。相手方からの話も、調停委員を通じて教えてもらいます。

話し合いがまとまると「調停調書」という合意書のようなものが作成されます。

 

③ 審判

調停で話し合いがまとまらない場合は、裁判官が「審判」といって、お互いの収入資料等に基づいて、婚姻費用の支払いを命じることができます。

 

5 婚姻費用については弁護士にご相談ください!

婚姻費用は今後の生活を続けていくために重要なものです。しかし、毎日の仕事や育児家事に追われ、なかなか婚姻費用の問題が解消できないという方が多くいらっしゃいます。

自分で婚姻費用を調べるにしても、かなり億劫になりますよね。

当事務所の弁護士は様々なご夫婦の婚姻費用の問題を解決してきました。このページをご覧になっているあなたのケースについても、適切な解決に導くことができるでしょう。

婚姻費用についてお悩みの方は、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。