離婚を請求したい!どんな証拠が必要?

自分の配偶者が夜間や休日に外出することが多くなったり、スマートフォンを肌身離さず持ち歩くようになったり、急におしゃれをするようになったりして、不倫を疑い、なんとか不倫を突き止めたいと考えられる方は多いのではないでしょうか。不倫の慰謝料を請求するにはどんな証拠が必要なのかと疑問に感じている方のために、不倫の慰謝料請求を行うにあたり、証拠の重要性や具体的な証拠の例を解説いたします。

不倫の慰謝料請求をするには証拠はとても重要です!

実は、配偶者や不倫相手が「不倫をしました」と素直に認めているのであれば、証拠は必ずしも必要となるわけではありません。

しかし、配偶者や不倫相手が不倫を否定した場合は、「不倫をした」「していない」の水掛け論になってしまいます。証拠がなければ、有利に交渉や裁判を進めることができないのです。

特に、裁判になった場合は、一方当事者の言い分を、証拠なしに、裁判所がそのまま認定するということは考えられません。客観的な証拠が必要です。

不倫の慰謝料請求をするために有利・有益な証拠

不倫の慰謝料請求をするためにはどういった証拠があれば有利に交渉・裁判を進めることができるかを解説します。

念書など不貞行為を認める書面や録音データ

配偶者や不倫相手が、自身が不倫をしたことを認める旨を書面で認めていることは、有利な証拠となり得ます。肉体関係があったこと、不倫の相手方、回数や期間などを明記できるとより良いです。

また、配偶者や不倫相手が、不貞の事実を認める言葉を発したことが録音されていれば、有利な証拠となりえます。

しかし、弁護士の経験上、録音データの多くは、前後のやりとりを聞いても何について話している内容であるのか判然としない場合が多くあります。不倫をした時期、回数、不倫の相手方の名前、不倫相手が配偶者を既婚者であると知っていた等を意識して、録音をする必要があります。

録音データについては、一部分だけを切り取るのではなく、全体のデータを裁判所に提出することが一般的です。都合のいい部分を切り抜いて提出している等の反論をされる場合があるためです。そのため、無理やり言わせているような内容があれば、相手の発言は任意のものではないとして、証拠としての価値が大きく下がってしまうこともありえます。

探偵・興信所の報告書

ラブホテルや自宅に出入りする写真等を確保できれば、有効な証拠となり得ます。ただし、その写真等の報告書の内容は探偵や興信所によってクオリティが様々ですので、「探偵の報告書だから大丈夫」というわけではありません。

報告書の中には、被写体が誰なのか鮮明に写っていない場合やどこの施設なのか、施設に出入りしたときに二人であるかどうかわからない等の場合があります。また、日時が正確に記載されていない場合や二人の詳細な状況が記載されていない報告書は、相手方に反論の余地を与えてしまう場合もあります。

GPSの履歴

スマートフォンに内蔵されたGPSの履歴等から、ラブホテルに行ったこと及びその日時等が把握できる場合であっても、それだけで不貞の事実を立証できるとは限りません。例えば、派遣型の風俗店を利用するために一人でラブホテルに行ったという反論があり得るためです。

GPSの履歴は、他の証拠と併せて不貞の立証に用いることが多いです。

そもそも、配偶者や不倫相手の車にGPSを取り付ける行為は許されるのでしょうか。

令和3年8月26日より、「恋愛感情、行為の感情又はその感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足させる目的」で①無断でGPS機器等を取り付ける等の行為及び②無断でGPS機器等により位置情報を取得する行為が、ストーカー規制法の規制対象行為となりました。

不倫調査のため配偶者や不倫相手の車両等にGPS機器を設置する行為が直ちに刑事上違法となるわけではないと考えられますが、民事上は違法となる可能性が高いと考えられます。

探偵が依頼を受けた不倫調査のため調査対象者の車両にGPS機器を取り付け、約1週間に渡りその位置情報及び移動履歴を取得したこと等について、「一般に、自己の位置情報や移動履歴は、他者にみだりに開示されたくない個人情報といえるからプライバシーにかかわる情報」であるとして、「プライバシーを違法に侵害する行為である」と判断し20万円の慰謝料の支払いを命じた裁判例があります(旭川地裁令和6年3月22日D1-Law.com判例体系)。

また、都道府県によっては条例により承諾のないGPS機器等による位置情報の取得が違法とされる場合がありますので注意が必要です(例 東京都迷惑防止条例、埼玉県迷惑行為防止条例など)。

メールやLINE、SNSのトーク履歴

配偶者と相手方とのメールやチャットのやりとり等は、内容によっては証拠になり得ます。単に「昨日は楽しかったね」というような内容では、二人が何らかの形で接触した事実はわかりますが、不貞の事実は認定できません。肉体関係があったことがわかる内容や、宿泊をしたこと、ラブホテルに二人で滞在したことがわかる内容等がなければ「複数人で食事に行っただけだ」「電話しただけ」等と反論の余地があるのです。

なお、LINE等のやりとりから、不貞の事実以外で、既婚者であるということを認識していたことを証明できる場合があります。例えば、「奥さんにバレたら大変だね」と不倫相手がコメントしていたりする場合です。

写真や動画

性行為をしている場面やそれに近い状況の写真や動画等は有利な証拠となりえます。しかし、顔が写っていなかったりすると、風俗店を利用しただけであるとか、相手方以外の第三者である可能性があり、「自分ではない」と否定されてしまう可能性があります。

また、写真の日付がわからないと、いつの不貞行為が立証ができない場合がありますので、画像データの場合はプロパティ等で年月日を確認した方が良いです。

録音データ

性行為の最中に録音したデータは証拠になり得ますが、映像と異なり、誰の声なのか不明であるというリスクがありえます。

夫の自動車にボイスレコーダーを設置し、その録音データの反訳文を証拠として提出した事案において、「その方法が著しく反社会的な手段を用いて被告やAの人格権等の侵害を伴う方法によって得られたものとまではいえない」として証拠能力を肯定した裁判例があります(東京地判平成21年11月17日D1-Law.com判例体系)。

慰謝料を請求する側が不貞の事実を証明をする必要がある

不倫をした配偶者や不倫相手が不倫の事実を否定したことから、慰謝料請求をする裁判を起こしたとします。この場合、裁判官が不貞の事実を証拠から認定できるかどうか審理することになります。そして、不貞があったということを、慰謝料を請求する側が証明しなければなりません。慰謝料を請求する側が十分な証明をすることができない場合は、慰謝料請求は棄却される、つまり裁判で負けてしまうのです。

それでは、どの程度の証明が必要なのでしょうか。少し難しい話をすると、最高裁判所の判例では「訴訟上の因果関係の立証は、1点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつそれで足りる」(最判昭和50年10月24日)とされています。

簡単に言うと、普通の人の感覚で8割方そのような事実(=性交渉)があったと考えられる程度に証明が必要、ということです。

例えば、配偶者と相手方とがラブホテルに出入りする写真があった場合、通常は性行為があったという蓋然性があるといえますが、必ず不貞の事実が認定されるとは限りません。ラブホテルの出入りを認めつつも、当事者の関係性やメールのやりとり等から不貞の事実を認定しなかった裁判例もあります(例 福岡地裁令和2年12月23日判決など)。「この証拠があれば必ず不貞の事実が認定できる」と断定することはとても難しいということを頭に入れておいた方が良いといえます。

要注意!証拠が使えない場合があります!

慰謝料請求を有利に進めたいと考えるあまり、あらゆる手段によって証拠を獲得しようとしてしまいがちですが、実はせっかく獲得した証拠を使えない場合があります。「証拠能力」という問題です。証拠資料を事実認定のために利用し得るためには証拠能力を有している必要があります。証拠を違法に取得したような場合には、証拠能力が否定される場合があります。

例えば、夫の携帯電話から夫と相手方とのメールの送受信の履歴を無断で転送して証拠として提出した件について、裁判所は、「携帯電話機により個人間で受送信されたメール文は、信書(特定人がその意思を他の特定人に伝達する文書)と同様の実質を有するものであり、信書と同様に正当な理由なく第三者に開示されるべきものではない。」、「その入手や利用は違法であるというべきであり、その入手方法の違法性は刑事上罰すべき行為と実質的に同等に重大なものである」として、原告(妻)が提出したメールの証拠能力を否定し、不貞の事実を認定しなかったのです(東京地判平成21年12月26日D1-Law.com判例体系)。

配偶者のLINEやSNS等のアカウントに無断でログインすることは、不正アクセス禁止法違反に該当し得る行為であるため、このような手段によって取得したトーク履歴等についても同様の判断がなされる可能性がありえます。

不貞は密室で行われることが大半であり、その証拠がないことが多いという実情はありますが、「不倫の証拠をつかむため」という動機があっても、「どのような手段で証拠を獲得しても良い」ということにはなりませんので、細心の注意が必要です。

弁護士法人美咲にご相談ください

今回は、慰謝料請求をするための証拠について解説をしました。不倫を証明するための証拠収集が簡単ではないということをご理解いただけたのではないでしょうか。配偶者が不倫をした場合、感情的になって過剰な行動に及んでしまう方もいらっしゃいます。場合によっては、証拠収集行為が違法となり、刑事罰の対象となってしまう場合もあります。まずは冷静になり、弁護士に相談することをおすすめします。

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